片岡マンドリン研究所
話音倶楽部
2005年12月10日  話音倶楽部特別コンサート

出演:加賀城浩光(マンドチェロ)

今回初めて片岡マンドリン研究所へ伺い、話音倶楽部のマンドチェロコンサートを聴かせていただきました。 マンドチェロ奏者は加賀城浩光さん。 ご出身は宮崎で、現在は宮崎と福岡の2か所を拠点に活躍されています。 マンドリン音楽の新ジャンルを生み出すべく、新たな楽器の企画、新曲の作曲に意欲的に取組んでいらっしゃる方です。

少し早めに高円寺入りして腹ごしらえして出かけようと思っていた所、少し道に迷ってしまい、到着したのは開演ギリギリになってしまいました。 しかし、休憩時間にワインとカナッペを出していただき、終演後には加賀城さん、片岡先生、スタッフの方、テスタカルドの皆さん、そして私のような一般客も混じり、 打ち上げとしてお食事とビールまでいただいてしまいました。 道に迷って腹ごしらえできなかったことは、ケガの巧妙だったようです。

話音倶楽部特別コンサート 話音倶楽部特別コンサート

コンサートの話に移りますが、まず私にはこの話音倶楽部というコンサートの形式そのものが新鮮でした。 一般の戸建住宅の中で行われる、文字通り「アットホーム」な空気。 コンサート自体も、オーケストラ風の「演奏とプログラムで説明すれば十分」という姿勢ではなく(それはそれで1つの形でありますが)、MCが随所に入った形 のものでした。 加賀城さんは語り口がとても軽妙で温かく、しかも加賀城さんの音楽世界が理解できるよう十分に噛み砕いて説明してくださったので、コンサートが終わる頃には会場全 体がすっかり「加賀城ワールド」に入り込んでいました。

使用楽器は「マンドチェロ」ということですが、一見そうは見えません。 私は普段マンドセロを弾いていますが、最初の曲が終わり、MCで楽器の説明を受けるまで、加賀城さんが弾いている楽器がマンドチェロだということに気付きませんでした。 加賀城さんの弾くマンドチェロ、そしてその奏法は、下記のとおり非常に特徴的なものです。

・形状はフラットでしかもクラシックギターのようにくぼみがある
・フォークギターの弦を張っている(弦はコマの所までしかない)
・ピックの使用はトレモロの時など必要最小限に留め、なるべく指で弾く。
 親指だけでなく、クラシックギターのように右手の指全体を使う。
 そのため、指が入るよう、各弦の間が通常のマンドチェロよりも広くなっている。
・調弦はCGDG(一般的にマンドチェロはCGDA)
・通常、ロックで用いるようなタッピングといった特殊奏法をマンドチェロに適用

この日演奏された加賀城さん作曲の無伴奏マンドチェロ作品のほとんどは、こうした 特徴ある楽器・奏法により、初めて演奏可能になるものだそうです。

話音倶楽部特別コンサート 話音倶楽部特別コンサート

前半は「12月の夜に」・「遠い星」・「酒よ人の望みの喜びよ」・「Consolation」といった曲目。 今年病院へ入院された時に作曲をしていたというエピソードは、同じく今年入院した経験がありながら、のんびり過ごしてしまった私には大いに刺激になるお話でした。 また、「酒よ人の望みの喜びよ」というタイトルにもあるように、(このタイトル間違いじゃないんです!とユーモラスに強調されていました)酒を愛し、人生を愛して いる加賀城さんのお人柄が随所に現れます。

休憩を挟んだ後半は、九州にまつわる曲で、「サボテンのある坂」「堀切峠」などが演奏されました。 ここでは九州男児として九州を愛する加賀城さんの顔を覗くことができました。

私は、今回マンドチェロという楽器をここまで肯定的に捉えている方に初めて出会いました。 マンドリンオケの中では、マンドラが管弦楽オケのチェロの領域にまで踏み込んで活躍するケースが多いことや、マンドチェロ自体の性質もあってか、チェロパートとい うのは、どこかしら「後ろ向きの運命」を背負っているような、パートバランスが悪いから仕方なくチェロに回された人が2〜3人はいる中でやっているような(かく言 う私が当初はそうでしたもので)、そんな中で「オレがベース音で合奏を支えてるんだ!」ということに何とかプライドのありかを見つけるような、そんな淀んだ世界だ と思っていたのですが(生粋のチェリストの皆様、ゴメンナサイ)、加賀城さんの「マンドチェロ観」は全く違うものでした! 「自分で作曲した音楽を演奏するのに一番適しているのが、マンドチェロをいじって改良したものだったんだから、しょーがないじゃないか!」とでも言いたげな、そん な風情なのです。 マンドチェロでなくては表現できない音楽。シンプルなようで、マンドチェロ奏者のはしくれにとって重大な啓示となりそうです。

なお終演後、同じ場所で打ち上げとなり、加賀城さんを囲んで盛り上がりました。 またいつか足を運びたい、そう感じさせる温かいものがこの室内に溢れていました。
(舘 敬介様 レポートありがとうございました) 

● プログラム ●
/// 第1部 ///

・12月の夜に
・遠い星
・酒よ人の望みの喜びよ
・Consolation(慰め)

/// 第2部 ///

・YATOGI
・堀切峠
・流れる雲の下で
・荒城の月
・サボテンのある坂
・UDO(鵜戸)

/// アンコール ///

・大きな古時計
・上を向いて歩こう