片岡マンドリン研究所
アンサンブル虹
2003年08月24日  「24時間テレビ」出演者の皆様からお便りを頂きました 1

24時間テレビでマンドリンを演奏

岩下 宏

1.出演のきっかけ
6月の初めのある日、勤務している施設(視覚障害者更生施設)で、施設長から、「岩下さんマンドリンをやってみたい?」と突然聞かれました。突然だったので、「はあ、できるものなら」と答えてしまいました。 それは私の父が、私がまだ5歳か6歳の頃だから60年も前に、マンドリンを弾いているのを聞いていたこと、そして数年前に地域の公会堂で、有名な明治大学のマンドリンクラブの演奏を聞いていたこと、などでマンドリンのきれいな響きが心のどこかに残っていたためかも知れません。ところがその日の晩から、私にとって、あるいは私の家族にとって前代未聞の出来事が始まりました。日本テレビの24時間テレビの担当ディレクターと番組制作会社の人たちからの、施設や自宅への電話や訪問取材攻勢が続き、遂にTOKIOの山口さんの来宅で、視覚障害者4名で武道館においてマンドリンを弾くというシナリオに参加することが決まりました。この間約2週間、しかも北海道にいる孫まで出演するというおまけ付きで。

2.マンドリンを初めて手にして
忘れもしない6月15日、東京・高円寺の片岡マンドリン研究所で、初めてマンドリンを手にしました。その日は、初対面同士の視覚障害者(東京の高橋さん、神奈川の長谷川さんと金子さん)、番組関係者、TOKIOの山口さん、マンドリンの指導に当る片岡先生と研究生たちが初めて一堂に会しました。本番で演奏する「星に願いを」を先生と研究生たちが弾いてくれたのを聞いて、その美しい音色にうっとりとしているゆとりはありませんでした。「わー、長い!」というのが実感でした。こんな長い曲を約2ヶ月で弾けるようになるのだろうか?もしかしたら、先生方も一緒に演奏してくれるのかも、などとも思ったりしました。マンドリンを習えるという期待と大変だという不安で複雑な気持ちでした。

3.猛練習の思い出
1週間に2回、研究生の田島先生と折原先生の指導で自宅にて練習、週末に4名が集まって片岡先生のご自宅で指導していただきました。これが約7週ぐらい続きました。凝り性の私は、うまく弾けないところは納得がいくまでやってしまうため、1ヶ月ぐらいすると、弦を押さえる左手の人指し指を腱鞘炎で傷めてしまいました。更に練習が勤務から帰ってからの夜だったので、疲れて体調を時々崩し、途中で弱気になったこともありました。 マンドリンでは、トレモロという弦を振るわせる操作がその特徴ですが、それが思うようにできませんでした。しかし1ヶ月ぐらい経ったころ、偶然そのコツを掴んでから、少し自信がついてきたような気がします。

4.武道館での本番
本番の前日、武道館での練習、その後会場を変えての練習と本番に向けてやるべきことは全てやったという思いでしたが、本番での緊張が心配でした。しかしそれをほぐしてくれたのが、前日から泊まっていたホテルで朝食後に長谷川さんの部屋で、自分達だけで練習をした事がとても良かったような気がします。 2003年8月24日、天候が不順だった今年の夏でしたが、この日は朝からとても暑い日でした。昼ごろ武道館に入ってから、第1回目の出演の午後4時まで、男性はモーニング、女性はドレスといういでたちで、番組担当者から何回も舞台での本番、更には退場までの細かいスケジュールの説明を受けました。午後4時少し前、遂に舞台に上がりました。不思議とあまり緊張はしませんでした。それは周りに先生方がいてくれたためかも知れません。 テレビにはビデオが写されていました。私の両親や私の若い頃の写真、孫からの励ましのテープを聞いているところや他の3名の家族などのことが流れていました。 演奏は自分でも不思議に思うくらい満足にできました。演奏が終わって思わず隣の長谷川さんと握手をしていました。 前日に北海道から来ていた孫とは、舞台で今年初めて逢いました。司会の徳光さんが、孫にインタビューしているのを聞いて不覚にも眼をうるませてしまいました。 3時間後の午後7時ごろには、障害者で音楽に挑戦する他の4グループとのメドレー、歌手の木村弓さん、全盲のバイオリンニストの和浪さんも共演、最後は全員大声で歌を歌いましたが、この時はもっとリラックスできました。この時の視聴率が20数パーセントで、24時間テレビの中で一番高率だったことを後で聞きました。また、生の音とテレビで聞く音がこんなにも違うということも後で初めて知りました。

5.後に残ったものは
孫の出演という番組制作者のシナリオに乗らなければならなかったという思いはありますが、こんな経験は後にも先にもまずないことなので、よい経験をしたと思っています。 一つの番組を作るということが、こんなにも大変なことだとは思ってもみませんでした。それにも増して、本番の数十分のために、大勢の人との出会いがあったことはこれからの私の人生にとっても、かけがえのないことだと思います。 更に、先生は大変だったと思いますが、私にとっては、マンドリンという楽器が弾けるという自信、これはまだまだいろいろなことに挑戦できるという自信をつけてもらえたような気がします。先生方には本当に感謝で一杯です。 また今度のことで家族の協力が本当に大切であることを改めて実感させられました。家族のありがたさを思い知らされたような気がします。 テレビを見たといういろいろな人から電話をもらったり、路で声をかけられたり、暫くはびっくりでした。指が治り、仕事も一段落したら是非マンドリンを続けたいと思っています。