片岡マンドリンアンサンブル
森 真理 記
2000年5月、ドイツで行われたヨーロッパミュージックフェスティバル2000に参加しました。メンバーは片岡マンドリン研究所門下生によって構成されており、その音楽祭以外でも公演を行いました。
1998年のフリードリッヒスハーフェンにおける全ヨーロッパ撥弦楽器音楽祭にトリオ・ノーボが参加し、現地で好評だったことをきっかけに、次はぜひ門下生によるアンサンブルでの参加をということで、音楽祭会長のアロエス・ベッカー氏よりご招待いただきました。初の海外公演の話に研究所は大いに盛りあがって、参加者が18人になりました。日本人作曲家による作品をドイツにて紹介するということで、外務省より「ドイツにおける日本年」に参加の認定を受け、1年余り前から準備を重ねました。
5月10日、約12時間のフライトで、ドイツのフランクフルトに到着。ロビーでは今回の旅行でとてもお世話になった越智敬先生が出迎えてくださいました。夕方6時を過ぎているのに真昼のように明るい空の下、チャーターしたバスに乗り込みマンハイムへ向かいました。
11日、越智先生の計らいでハイデルベルグを訪ねました。美しい古城ときれいな街並みに、ドイツに来た事を実感しました。午後からは演奏会の準備です。会場の”STADTISCHE MUSIKSCHULE MANNHEIM”は越智先生が教鞭をとっておられたマンハイムにある音楽学校です。パイプオルガンが据えられた白い講堂は、驚くほど良く音が響くホールでした。
当日の出演はマンハイム・ギターオルケスター、マンハイム・メッツァカーポ・カルテット、そして片岡マンドリンアンサンブルの3組でした。私達はアンサンブルで「さくら・田植唄・小鳥の歌」(橋本国彦)「トリプティーク 3楽章」(芥川也寸志)「コンポジションNO.2」(続木繁之)「小組曲Y2K」(桜井至誠)を、デュオで「六段変奏曲」(越智敬)、ソロで「春が来た変奏曲」(中野二郎)を演奏しました。ドイツに到着翌日の演奏会で、全員緊張しながらも無事演奏会を行うことができました。打ち上げは越智先生の経営する寿司店「KAORU」で、おいしいお寿司をお腹いっぱいいただき、一同大満足でした。
12日、バスでラスタットへ移動。街のあちらこちらに音楽祭のポスターが貼られていました。音楽祭会場ロビーは楽器製作者が自ら楽器を展示していたり、楽譜、CD、楽器アクセサリーのお店もたくさん出て賑わっていました。この日は観客として演奏会を楽しみ、夜はレセプションに出席。他の音楽祭参加者と共にドイツの家庭料理を堪能しました。
13日、音楽祭では朝9時からワークショップが開かれ、メンバー数名が参加しました。ドイツ語はわからないものの、講師が親切に要所を英語で説明してくださり何とか授業についていくことができました。11時から演奏会場でジュニア部門の演奏があり、かわいらしいフランスの子供達のマンドリン合奏、卓越したテクニックを持つ青年のギター演奏が印象に残りました。特にギターの青年はバッハと現代曲を続けて演奏し、全く趣の異なる2曲を完璧に弾きこなしていました。他にも次々と若い世代の素晴らしい演奏が披露され、層の厚さを感じました。午後のコンサートはいよいよ私達の出番。たくさんの観客を前に、「トリプティーク 3楽章」と「コンポジションNO.2」をのびのびと演奏し、指揮なしでの呼吸の合ったアンサンブルに会場から温かい拍手をいただきました。夜はプロによる演奏会。各地からの選抜メンバーによる合奏は、迫力があると同時に洗練されていて素晴らしいものでした。この日のレセプションでは、初日のポテト料理の味になじめなかった私達のために、かわりにヌードルを用意してくださるという温かいおもてなしを受けました。
14日、有志が朝のワークショップに参加、11時からは最後の演奏会を全員で楽しみました。すっかりマンドリン漬けになった3日間でした。
午後、次のコンサート会場であるエヒティンゲンに向け出発しました。エヒティンゲンの演奏会場には控室がないとのことで、ホテルで調弦をし、ステージ衣装で町の一本道を歩いて会場に向かいました。ワイナリー隣のホールは既に満席。テーブルには生け花と折り紙が飾られ、歓迎ムード一色でした。まず、地元のマンドリンオーケストラによる演奏。「トラビアータ」(ベルディ)などの曲の後に、「日本の童謡集」(伊藤翁介)が演奏されました。「証城寺の狸囃子」の部分で私達は思わず声を出して歌っていました。次に越智先生と共にラインネッカー四重奏団として来日したこともあるクラウス氏が「静動」(越智敬)を独奏。ダイナミックさと繊細さを兼ね備えた演奏に、会場は大いに沸きました。私達はマンハイムと同じプログラムに、デュオで「めだか」「走馬灯」(中野二郎)を加えました。みなさんワインを楽しみながら熱心に聴き入ってくださり、和やかな雰囲気のなか私達もリラックスして演奏できました。アンコールの最後には「蝶々の主題による変奏曲」(服部正)を演奏。「蝶々」はドイツで「小さなハンス」という題で親しまれている曲だそうで、会場にはドイツ語の歌声が響きました。演奏後は、この日が「母の日」ということで女性にはシャンペンがサービスで振舞われました。ワインやシャンペンをいただきながら、現地の演奏者の方々とのおしゃべりに花が咲きました。のどかな街の風景と空気と人の温かさを満喫したとても楽しい一日でした。
15日、ドイツからスイスのチューリッヒへ移動。この旅行で最後の演奏会となる会場は教会でした。しかも私達のアンサンブル単独の演奏会です。残響の長さに戸惑いながら短いリハーサルを終え、今までとはまた違った緊張感のなか演奏を始めました。プログラムは前日と同じですが、会場のせいか全く違う曲を弾いているようでした。小さい音を美しく、ということに注意しながら心をこめて演奏しました。アンコールに次ぐアンコールで、用意した曲がなくなるという嬉しい悲鳴でした。終演後には「トレモロが素晴らしかった」「どんな楽器を使っているのか見せて欲しい」「素晴らしい演奏!」「どうやって弾いているの?」など、しばらく楽器談義が続きました。夕食は、当日の公演の準備をしてくださった方やマンドリンを愛好される方々と共にマンドリンの話をしながら楽しくいただきました。当研究所のホームページをよく見てくださっているという嬉しい声も聞けました。
17日、今回の公演を企画し同行してくださった越智先生とチューリッヒでお別れ。4公演を好評のうちに終えたメンバーは満足な表情で日本への帰路につきました。越智先生のご尽力により実現したヨーロッパ公演での貴重な経験は、アンサンブルやソロなど今後それぞれの活動に必ず生かされると思います。越智先生に心から感謝申し上げます。